誰の心の中にも、きっと破滅願望がある。
どうにでもなっちまえ、と自棄になったときにこそ、その人の本当にやりたいことが見えてくる。
僕はただ寝ていたかった。
ただずっと寝ていたいだけなのに、朝は無条件に訪れる。
その理不尽さにむかついたから、朝をめちゃめちゃにしてやろうと思った。
手始めに、僕を起こそうと喧しく鳴り響くスマホのアラームに嫌気が差したので、窓を開けてスマホを外へぶん投げる。
砂利道に落ちた衝撃でアラームが鳴り止んだ。
満足げに笑みを浮かべつつ布団にもう一度入る。
最低の朝から、最高の朝になった。
鼓動が高鳴っている。どうにも眠れそうになかったので、結局目が覚めてしまった。
お腹が空いている。
そういえば、何もしなくても腹は減る。理不尽だ。
その理不尽さにむかついたから、朝食をめちゃめちゃにしてやろうと思った。
僕は冷蔵庫へ向かった。朝食をめちゃめちゃにするため。
だが、すぐに思い留まる。これから朝食をめちゃめちゃにできるほどのめちゃめちゃな朝食を作るのだ。
冷蔵庫にある食材ごときに務まるだろうか?
踵を返し、僕は風呂場へ向かった。
ドアを開け、おもむろに傍のシャンプーボトルを手に取り、蓋を開けた。
一切の躊躇する間も無く、一気に喉へ流し込んだ。
真っ白だ。
真っ白な世界がそこにあった。
僕は意識を失っていた。
目が覚めたとき、広くて暗い部屋にいた。
そういえば、僕はずっとこの部屋にいた気がする。
ここは時々けたたましく轟音が唸ることがあり、おちおち眠ることもできないという状態だった。それでも眠ることができたのは、日々の疲れのおかげかもしれない。
部屋の暗さに目が慣れず、それでも歩くことにした。
少し歩いたところで、脛に硬いものをぶつけて蹲った。
何度か足をぶつけて蹲っているうち、自分の胸のあたりに隙間があることに気付いた。空いた隙間からは淡い光が漏れ出ているのがわかった。
覗き込むと、そこにも部屋があって、今いる部屋よりも幾分か過ごしやすいように見えたので引っ越すことにした。
新しい部屋は居心地がよく、日当たりも良く明るい。
前の部屋は騒音が喧しく眠れなかったが、此処なら寝つきも良くなりそうだ。
そう思って住民票を移し、幾分か経って今に至る。
だが、もうそろそろ此処も気に入らなくなってきた。
治安も良く平和なのだが、一生を過ごすにはあまりに空虚で退屈だった。
そんなとき、何気なく眺めていた本棚の、本と本との隙間に未使用のオイルライターがあった。
試しにつけてみると、手元しか照らせない。頼りない明かりだが、皮膚に伝わる熱を感じたとき、もう一度あの暗い部屋に引っ越そうと思った。明るい部屋には鍵をかけずに、いつでも戻れるようにしておくつもりだ。
僕はいつまで経っても臆病だった。
朝になったら起きなければいけないし、シャンプーは人生で一度も飲んだことがない。
僕はシャンプーひとつ飲むことができない、弱い人間だ。
弱い人間なので、朝食はいつもセブンイレブンのアメリカンドッグを食べている。
あなたはどこのコンビニのアメリカンドッグが一番美味しいと思いますか?
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